伊豆の踴子(伊豆的舞女)

川端康成 著 蔣家義 譯

第一章

道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思うころ、雨足が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追って來た。

山路變得彎彎曲曲,快到天城嶺了,雨腳白亮亮地籠罩著杉木林,從山麓迅猛地向我襲來。

私は二十歳、高等學校の制帽をかぶり、紺飛白の著物に袴をはき、學生カバンを肩にかけていた。一人伊豆の旅に出てから四日目のことだった。修善寺溫泉に一夜泊まり、湯ヶ島溫泉に二夜泊まり、そして樸歯の高下駄で天城を登って來たのだった。

我二十歲,頭戴高中的制帽,身穿藏青地碎白花紋的上衣和褲裙,肩上挎著一隻書包。我獨自一人到伊豆旅行已經是第四天了。我在修善寺溫泉住了一夜,在湯島溫泉住了兩夜,然後穿著高齒的木屐攀登天城山。

重なり合った山々や原生林や深い渓谷の秋に見とれながらも、私は一つの期待に胸をときめかして道を急いでいるのだった。そのうちに大粒の雨が私を打ち始めた。

一路上我陶醉在重巒迭嶂、原始森林和深邃幽谷的秋色之中,可是,有一個期待卻讓我的心悸動不已,催著我趕路。就在這時候,豆大的雨點開始打在我的身上。

折れ曲がった急な坂道を駆け登った。ようやく峠の北口の茶屋にたどり著いてほっとすると同時に、私はその入口で立ちすくんでしまった。あまりに期待がみごとに的中したからである。そこに旅芸人の一行が休んでいたのだ。

我疾步登上曲折而陡峭的坡道,好不容易才來到山嶺北口的一家茶館,吁了一口氣,便站在茶館門口呆住了。因為我所期待的竟然完全實現了:巡迴藝人一行正在那裡休息。

伊豆的舞女 | 中日對譯(第一章)

突っ立っている私を見た踴子がすぐに自分の座布団をはずして、裡返しにそばに置いた。

「ええ…。」とだけ言って、私はその上に腰をおろした。坂道を走った息切れと驚きとで、「ありがとう。」という言葉が喉にひっかかって出なかったのだ。

舞女看見我呆呆地站著,馬上讓出自己的坐墊,把它翻個身,放在邊上。“哦……”我只應了一聲,就在坐墊上坐下了。由於剛跑上坡道,氣喘吁吁的,再加上有點驚慌,連“謝謝”這句話也卡在喉嚨裡沒能說出來。

踴子とま近に向かい合ったので、私はあわてて袂から煙草を取り出した。踴子がまだ連れの女の前の煙草盆を引き寄せて私に近くしてくれた。やっぱり私は黙っていた。

我和舞女面對面坐在一起,慌忙從衣袖裡掏出了香菸。舞女把同行女子面前的菸灰缸移過來,放到我的近旁。我還是沒有說話。

踴子は十七くらいに見えた。私にはわからない古風の不思議な形に大きく髪を結っていた。それが卵型のりりしい顔を非常に小さく見せながらも、美しく調和していた。髪を豊かに誇張して描いた、稗史的な娘の絵姿のような感じだった。踴子の連れは四十代の女が一人、若い女が二人、ほかに長岡溫泉の印半纏を著た二十五六の男がいた。

舞女看上去大約十七歲。她梳著一個我叫不上名字的大發髻,式樣古舊而又奇特,使她那沉靜的鵝蛋臉顯得非常小,但卻勻稱柔美,感覺就像稗史裡面頭髮畫得異常豐厚的姑娘的畫像。舞女的同伴中有一個四十多歲的女人,兩個年輕姑娘,還有一個二十五六歲的漢子,穿著印有長岡溫泉旅店商號的短褂。

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私はそれまでにこの踴子を二度見ているのだった。最初は私が湯ヶ島へ來る途中、修善寺へ行く彼女たちと湯川橋の近くで出會った。その時は若い女が三人だったが、踴子は太鼓をさげていた。私は振り返り振り返り眺めて、旅情が自分の身についたと思った。

然後是在湯島的第二天晚上,她們來到了旅館。我在樓梯當中坐下,聚精會神地觀看舞女在大門口的走廊上跳舞。——那天在修善寺,今天晚上在湯島,那麼明天大概要越過天城嶺往南去湯野溫泉。在天城山二十多公里的山路上一定能追上她們。

それから、湯ヶ島の二日目の夜、宿屋へ流しが來た。踴子が玄関の板敷で踴るのを、私は梯子段の中途に腰をおろして一心に見ていた。あの日が修善寺で今夜が湯ヶ島なら、明日は天城を南に越えて湯ヶ野溫泉へ行くのだろう。天城七里の山道できっと追いつけるだろう。

舞女這一行人至今我見過兩次。第一次是在我前往湯島的途中,她們正要去修善寺,是在湯川橋附近相遇的。當時有三個年輕姑娘,舞女提著鼓。我頻頻回過頭去看她們,一股旅人的愁情油然而生。

そう空想して道を急いで來たのだったが、雨宿りの茶屋でぴったり落ち合ったものだから私はどぎまぎしてしまったのだ。まもなく、茶屋の婆さんが私の別の部屋へ案內してくれた。平常使わないらしく戸障子がなかった。下をのぞくと美しい谷が目の屆かないほど深かった。

我就這樣浮想聯翩匆匆趕路,沒想到為了避雨,在茶館裡和她們相遇了,我的心砰砰直跳。過了一會兒,茶館的老大娘把我領到了另一個房間裡。這房間大概平常不用,沒有安門窗。朝下望去,美麗的山谷深不見底。

私は膚に粟粒をこしらえ、かちかちと歯を鳴らして身震いした。茶を入れに來た婆さんに、寒いというと、「おや、だんな様おぬれになってるじゃございませんか。こちらでしばらくおあたりなさいまし、さあ、おめしものをおかわかしなさいまし。」と、手を取るようにして、自分たちの居間へ誘ってくれた。

我的面板上起了一層雞皮疙瘩,牙齒格格打顫,渾身發抖。我對送茶進來的老大娘說了一聲:“真冷啊!”“啊呀,少爺渾身都溼透啦。到這兒來烤烤火吧,來,把衣服烤烤乾。”說著,她拉起我的手,把我領到自己的居室。

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その部屋は爐が切ってあって、障子をあけると強い火気が流れて來た。私は敷居ぎわに立って躊躇した。水死人のように全身青ぶくれの爺さんが爐端にあぐらをかいているのだ。瞳まで黃色く腐ったような目を物うげに私の方へ向けた。身の回りに古手紙や紙袋の山を築いて、その紙くずのなかに埋もれていると言ってもよかった。とうてい生物と思えない山の怪奇を眺めたまま、私は棒立ちになった。

那個房間裝著地爐,一開啟拉門便有股強烈的熱氣撲面而來。我站在門檻邊躊躇了。一位像溺死的人那樣渾身青腫的老大爺盤腿坐在爐邊。他倦怠地朝我這邊望望,那雙眼睛像是爛了似的,連瞳孔都呈現黃色。在他的身邊,舊信和紙袋堆積如山,簡直可以說他是被埋在這些廢紙裡的。我木然呆立著,望著這個山中怪物,實在無法想象他還是個活人。

「こんなお恥ずかしい姿をお見せいたしまして…。でも、うちのじじいでございますからご心配なさいますな。お見苦しくても、動けないのでございますから、このままで堪忍してやって下さいまし。」

“讓您瞧見這副模樣……不過,他是我的老伴兒,您別擔心。他樣子難看,但是已經不能動彈了,請您忍耐一下吧。”

そう斷ってから、婆さんが話したところによると爺さんは長年中風を煩って、全身が不隨になってしまっているのだそうだ。紙の山は、諸國から中風の療法を教えて來た手紙や、諸國から取り寄せた中風の薬の袋なのである。

老大娘這樣打了個招呼。據她說,老大爺患中風多年,最終全身不遂。這成堆的紙便是寄自各地有關治療中風的信件,以及從各地購來的藥品的紙袋。

爺さんは峠を越える旅人から聞いたり、新聞の広告を見たりすると、その一つをも漏らさずに、全國から中風の療法を聞き、売薬を求めたのだそうだ。そして、それらの手紙や紙袋を一つも捨てずに身の回りに置いて眺めながら暮らして來たのだそうだ。長年の間にそれが古ぼけた反古の山を築いたのだそうだ。

老大爺向全國各地打聽中風的療法,求購成藥,不管是從路過山嶺的旅人那裡聽來的,還是在報紙廣告上看到的,他從不曾漏過。這些信和紙袋,他一件也不扔掉,都堆放在身邊,望著它們過日子。年復一年,這些破舊的廢紙就堆積如山了。

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私は婆さんに答える言葉もなく、囲爐裡の上にうつむいていた。山を越える自動車が家を揺すぶった。秋でもこんなに寒い、そしてまもなく雪に染まる峠を、なぜこの爺さんはおりないのだろうと考えていた。私の著物から湯気が立って、頭が痛むほど火が強かった。

婆さんは店に出て旅芸人の女と話していた。

聽了老大娘的話,我無話可說,便把身子俯在地爐上。越過山嶺的汽車震動著房子。我心想,秋天就這麼冷,不久山嶺將被大雪覆蓋,為什麼這位老大爺不下山去呢?從我的衣服上升騰起一股水蒸氣,爐火旺得使我頭暈腦脹的。老大娘出了店堂,和巡迴女藝人閒聊起來。

「そうかねえ。この前連れていた子がもうこんなになつたのかい。いい娘(あんこ)になって、お前さんも結構だよ。こんなにきれいになったのかねえ。女の子は早いもんだよ。」

“喲,上次帶來的姑娘已經這麼大了嗎?變成漂亮姑娘了。你也很好啊。這麼標緻!姑娘家長得可真快呀。”

小一時間経つと、旅芸人たちが出立つらしい物音が聞こえて來た。私も落ち著いている場合ではないのだが、胸騒ぎするばかりで立ち上がる勇気が出なかった。旅慣れたと言っても女の足だから、十町や二十町遅れたって一走りに追いつけると思いながら、爐のそばでいらいらしていた。しかし踴子たちがそばにいなくなると、かえって私の空想は解き放たれたように生き生きと踴り始めた。彼らを送り出して來た婆さんに聞いた。

將近一小時之後,傳來了巡迴藝人準備動身的聲響。我也坐不住了,但只是感到焦躁不安,卻沒有勇氣站起身來。我想,雖說她們習慣了旅途,但畢竟是女人的腳力,即使落後她們一二公里,跑一段路也能追上;可是坐在火爐旁,我仍舊心煩意亂的。不過舞女她們不在身旁,我的幻想反而像得到了解放似的,開始活躍起來。我向送走她們的老大娘問道:

「あの芸人は今夜どこで泊まるんでしょう。」

“那些藝人今天晚上住在什麼地方呢?”

「あんな者、どこで泊まるやらわかるものでございますか、旦那様。お客があればあり次第、どこにだって泊まるんでございますよ。今夜の宿のあてなんぞございますものか。」

“這種人嘛,誰知道住在什麼地方?少爺。哪兒有客人,就住在哪兒唄。哪會有今天晚上一定的住處啊?”

はなはだしい軽べつを含んだ婆さんの言葉が、それならば、踴子を今夜は私の部屋に泊まらせるのだ、と思ったほど私をあおり立てた。

老大娘的話語帶著極其輕蔑的口吻,甚至煽起了我這樣的念頭:既然如此,今天晚上就讓舞女到我的房間裡睡吧。

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雨足が細くなって、峰が明るんで來た。もう十分も待てばきれいに晴れ上がると、しきりに引き止められたけれども、じっとすわっていられなかった。

「爺さん、お大事になさいよ。寒くなりますからね。」と私は心から言って立ち上がった。

雨腳變小了,山嶺明亮起來。雖然老大娘一再挽留我,說再等十分鐘,天就放晴了,可是我怎麼也坐不住了。

“老大爺,多多保重啊,天快冷了。”我由衷地說了一句,站起身來。

爺さんは黃色い眼を重そうに動かしてかすかにうなずいた。

老大爺費力地動了動黃濁的眼睛,微微點了點頭。

「旦那さま、旦那さま。」と叫びながら婆さんが追っかけて來た。

「こんなにいただいてはもったいのうございます。申しわけございません。」

“少爺!少爺!”老大娘喊著追了過來,“您給這麼多,實在不敢當。真對不起啊。”

そして私のカバンを抱きかかえて渡そうとせずに、いくら斷わってもその辺まで送ると言って承知しなかった。一町ばかりもちょこちょこついて來て、同じことを繰り返していた。

她抱住我的書包,不肯交還給我。我再三推卻,她也不答應,說要把我送到那邊。她跟在我身後,小跑著走了一百多米,嘴裡唸叨著同樣的話:

「もったいのうごさいます。お粗末いたしました。お顔をよく覚えております。今度お通りの時にお禮をいたします。この次もきっとお立ち寄り下さいまし。お忘れはいたしません。」

“實在抱歉啊,沒有好好招待您。我會牢牢記住您的樣子,下次您路過的時候再謝您。下次一定要來呀,可別忘了。”

私は五十銭銀貨を一枚置いただけだったので、痛く驚いて涙がこぼれそうに感じているのだったが、踴子に早く追いつきたいものだから、婆さんのよろよろした足取りが迷惑でもあった。とうとう峠のトンネルまで來てしまった。

我只是留下一個五角錢的銀幣,她卻如此大驚小怪,感動得眼淚都快流出來了。可是我一心想盡快趕上舞女,老大娘步履蹣跚,讓我十分為難。終於來到了山嶺的隧道口。

「どうもありがとう。お爺さんが一人だから帰ってあげて下さい。」と私が言うと、婆さんはやっとのことでカバンを離した。

“太感謝了。老大爺一個人在家,您請回吧。”聽我這麼說,老大娘才總算把書包遞給我。

暗いトンネルに入ると、冷たい雫がぽたぽた落ちていた。南伊豆への出口が前方に小さく明るんでいた。

走進陰暗的隧道,冰涼的水滴嘀嘀嗒嗒地落下來。前方,通往南伊豆的出口微微閃著亮光。

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